陽の章 五禽戯


2 華陀の教え



 五禽戯といえばまず、「華陀」の名が上がります。華陀は、千八百年ほど前の漢末の時代の名医で、すぐれた外科医として名を馳せました。

 『薬の処方にも精通していました。しかし調合する薬はわずか数種類を使用するだけ、薬の目方を空で見分けて、秤を用いる必要がなかったとか。

 鍼や灸もわずか数か所のツボを用いるだけ、手術が必要であれば、手術も行い、怒らせれば治る病気と見抜いてわざと怒らせて治したとも伝えられています。

 華陀は、呉普という弟子に五禽戯を伝えました。

 「人の体はせいぜい動かすのが望ましい。運動すれば、血液はよく流通し、病気は起こりようがない。ちょうど戸の枢(くるる)がいつまでも錆びつかぬのと同じだ。そのために昔の仙人は導引ということをした。私にはひとつの術がある。五禽戯と名づける。第一は虎、第二は鹿、第三は熊、第四は猿、第五は鳥である。これは昔の導引と同じものだ。体の調子の悪いとき、起き上がって五禽戯のどれかひとつをすれば、気が晴れ、汗が出る。体は軽くなり、食欲が出る」というふうに呉普に言ったのだそうです。呉普は言われたとおりにやり、90歳を過ぎても耳も目も歯も若いときのままだったといいます(亀の記憶 津村 喬著より)。』

 「適度に体を動かせば、若さと健康を保つことができる」これが華陀の教えです。薬漬けの現代医療に対して、強力なアンチテーゼとなる言葉です。

 また、「これは昔の導引と同じものだ」と、華陀自身が指摘しているように、五禽戯のそれぞれの動きは、華陀自身のオリジナルというより、さらに古い時代からの教えを伝承するものです。
 

 
 [BACK][TOP][HOME] [NEXT]